二酸化ケイ素SiO2を原料とする石英は、非晶質である石英ガラスのほかに、結晶としての石英があります。結晶としての石英は、温度や圧力によっていくつかの異なる結晶構造が存在することが知られていますが、ここでは、573℃以下という比較的低温において安定で、広く使用されている、水晶(低温型石英あるいはα-石英)について説明します。
水晶は、物理的・化学的性質が結晶方位によって異なっています。表1で示すように、線膨張係数や熱伝導率が、等方体である石英ガラスに比べて大きく、かつ、軸方向によって異なる値を持つことがわかります。このように石英ガラスと異なる物性値を示し、かつその値に異方性を示す理由は、その結晶構造に関係しています。
表1 代表的物性値
水晶は三方晶系に属する結晶で、その特徴は、図1(a)(b)に模式的に示しますように、ケイ素Siと酸素Oが、z軸に沿ってらせん状に配列していることです。このらせんの形態が、上下左右に特定の規則性に従って連続的に配列しています。z軸に平行方向に入射した光は、複屈折せずに直進しますが、らせん構造の影響で旋光作用を受けます。また、ケイ素はプラスの電荷、酸素はマイナスの電荷を帯びることから、z軸方向から見た電荷の状態は図1(c)のようになります。水晶の圧電効果※は、この電荷配置に起因すると一般的には説明されています。
※圧電効果:物質に応力が作用し歪みが生じると電界を発生する(正圧電効果)。逆に、電界を与えると物質が歪み応力を発生する(逆圧電効果)。圧電性を持つ物質は、正逆両方の性質を持つ
図1 水晶の結晶構造
このように、水晶の光学的性能や電気的性能の特徴は、このケイ素と酸素でつくられた結晶構造に起因しています。この結晶構造を座標で表現すると、図2のように、3回らせん軸対称、すなわちz軸(光学軸)を中心に120°回転するごとに等価なx軸(電気軸)がある、という軸構成になります。 この3本のx軸のうち1本に着目し、直交座標を当てはめると図3のようになります。この図に示すように、各軸に垂直なカットをxカット、yカット、zカットと称します。
図2 水晶の結晶軸 図3 直交座標での表記
人工的に育成されている水晶は、工業的なニーズから、y軸方向に長い結晶体が製造されることが多く(図4)、この結晶体から、必要な性能に適したウエハを切り出します。たとえば、1/4波長板や1/2波長板という水晶光学デバイスがありますが、これは主に、xカットやyカットを用います。z軸(光学軸)に対して垂直方向に入射する光は、複屈折と偏光の作用を受けることになりますが、波長板はその現象を利用したものです。また、水晶の圧電効果を利用したデバイスである水晶振動子は、x軸を回転軸としてz軸からおよそ35°の角度で切り出すATカットが有名です。このカットの両面に電極を形成し交流電界を与えると、厚みすべり振動が生じ、特定の周波数で発振させることができます。その周波数の温度安定性が優れており、マイコンのクロックや通信の同期などに用いられています。振動子については、振動モードに応じ、適切なカットがほかにもいくつか存在します。
以上のように、同じSiO2でありながら、水晶は石英ガラスと異なる性質を持ち、その特徴を利用することで、光学デバイスや電子デバイスのコアとなる素材として著しい進歩を遂げています。
図4 人工水晶
参考文献:
弾性波素子技術ハンドブック 日本学術振興会弾性波素子技術第150委員会編 オーム社
表面弾性波素子材料データブック 日本電子工業振興会
ROGER W.WARD「THE CONSTANTS OF ALPHA QUARTZ」 38th Annual Frequency Control Symposium -1984
化学便覧 応用編II材料編 改訂4版 日本化学学会編 丸善(1993)
化学便覧 基礎編II 改訂5版 日本化学学会編 丸善(2004)